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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)111号 判決

原告

金剛株式会社

被告

株式会社イトーキ

右当事者間の昭和54年(行ケ)第111号審決取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

特許庁が昭和54年6月14日、同庁昭和53年審判第13817号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2原告の請求の原因及び主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、考案の名称を「手動式移動書架」とする登録第1200556号実用新案(昭和43年3月21日実用新案登録出願、昭和51年3月12日出願公告、昭和52年10月28日登録――以下この考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、被告は昭和53年9月12日、原告を被請求人として特許庁に対し本件考案の登録無効審判の請求をし、右事件は昭和53年審判第13817号事件として審理されたが、特許庁は、昭和54年6月14日、右事件について、「登録第1200556号実用新案の登録は無効とする。」との審決をし、その謄本は同月23日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

1 昭和51年8月25日付け手続補正書による補正前の本件考案の実用新案登録請求の範囲

書架の側壁外面の立姿勢で操作し得る位置に回転自在に軸装された手動把手と、前記側壁の内側に前記手動把手と共軸一体に設けられた、前記手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪と、前記書架の底部に軸装された軌条上を、転動する車輪と、この車輪を駆動する前記伝動輪よりも大きい伝動輪と、前記両伝動輪間に掛け渡した伝動紐とからなる手動式移動書架。

2 昭和51年8月25日付け手続補正書による補正後の本件考案の実用新案登録請求の範囲

2重に作られた書架の側壁外面の立姿勢で操作し得る位置に回転自在に軸装された手動把手と、2重に作られた前記側壁間において、前記手動把手と共軸一体に設けられた前記手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪と、前記書架の底部に軸装され、軌条上を転動するフランジ付車輪と、この車輪を駆動する前記伝動輪よりも大きい伝動輪と、前記車輪とこれと並列的に設けられた車輪とを共軸一体に繋ぐ車輪軸と、前記両伝動輪間に掛け渡した伝動紐とからなる手動式移動書架。

3  審決理由の要旨

本件考案の願書に添付された明細書は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後の昭和51年8月25日付け及び昭和52年3月2日付けの手続補正書により補正されており、その補正後の実用新案登録請求の範囲は「側壁を二重に作り、その側壁間に手動把手と共軸一体に設けられた手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動軸を設置させた」点で減縮され、かつこの減縮に伴う効果が明細書中に「手動把手と共軸一体の伝動輪は二重に作られた側壁間に設けられているので駆動機構が書籍等の収納部がわに露呈することがなく、駆動機構に収納書籍等が倒れ込むこともないし、駆動機構の潤滑油が飛散しても収納書籍等を汚す恐れはない。そして側壁の一部が外側に突出するようなことはないから体裁上好ましく、歩行の障害にもならない。」と加記されているが、このように出願当初何ら限定のなかつた側壁を格別の効果を期待して二重壁にし、側壁間に手動把手と共軸一体に設けられた手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪を設置すると限定したことは減速駆動機構を用い手動で車輪付きの書架を軌条に沿つて移動し得るようにしたことのみを目的とした出願当初の具体的な目的と異なる新たな構成要件を付加するものであるからその他の付加された構成について検討するまでもなくこの補正は、実用新案登録請求の範囲を実質上変更したことといわざるを得ない。したがつて、前記補正は、実用新案法第41条の規定によつて準用する特許法第159条第2項の規定により準用する同法第64条第2項の規定により更に準用する同法第126条第2項の規定に違反している。そして、実用新案法第9条第1項の規定によつて準用する特許法第42条の規定によれば、実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後にした補正が、実用新案権の設定の登録後において特許法第64条の規定に違反するものと認められたときは、その補正がされなかつた出願について実用新案登録があつたとみなされるから、本件考案の要旨は、願書に最初に添付された明細書と図面及び昭和48年11月30日付け、昭和49年9月13日付け、並びに昭和50年10月24日付けの手続補正書の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された前項1のとおりであると認める。

ところで、1964年(昭和39年)10月20日発行のカナダ特許第696130号明細書と図面(以下「引用例」という。)には、書架の側壁外面の立姿勢で操作し得る位置に回転自在に軸装された手動把手と、手動把手と共軸一体に設けられた、前記手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪と前記書架の底部に軸装された軌条上を転動する車輪と、この車輪を駆動する前記伝動輪よりも大きい伝動輪と、前記両伝動輪間に掛け渡した伝動鎖とからなる手動式移動書架が記載されている。

そこで、本件考案と引用例とを比較すると、前者が①側壁の内側に伝動輪を設け、②伝動紐を用いているのに対して、〈1'〉後者は側壁の外側に伝動輪を設け、〈2'〉伝動鎖を用いた点の構成で相違する。

しかしながら、右①と〈1'〉の相違点によつて、格別の効果を奏するものではないので、①の点は当業者が必要に応じ極めて容易になし得る程度のことであり、②と〈2'〉の相違は設計上の微差にすぎないものである。

したがつて、本件考案は、実用新案法第3条第2項に該当し、同条に違反して登録されたものであるから、同法第37条第1項の規定に該当し、その登録は無効にすべきものである。

4  審決を取消すべき事由

審決は本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された明細書が出願公告をすべき旨の決定の謄本送達後に昭和51年8月25日付け及び昭和52年3月2日付けの手続補正書により補正された点について、「出願当初何ら限定のなかつた側壁を格別の効果を期待して二重壁にし、側壁間に手動把手と共軸一体に設けられた手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪を設置すると限定したことは減速駆動機構を用い手動で車輪付きの書架を軌条に沿つて移動し得るようにしたことのみを目的とした出願当初の具体的な目的と異なる新たな構成要件を付加するものであるからその他の付加された構成について検討するまでもなくこの補正は実用新案登録請求の範囲を実質上変更したことといわざるを得ない」と認定しているが、右認定は誤りである。

(1)  先ず本件考案は、昭和43年3月21日に実用新案登録出願されたものであるが、その願書に添付された最初の明細書にも既に「前記伝動鎖による駆動機構部は二重に作られた書架の側壁内に格納するような方法によつて体裁を良くすると共に、書架の棚板7の懸架に邪魔にならぬようにすることが望ましい」(2頁下から2行目ないし3頁3行)と記載されており、これによつても明らかなとおり側壁を二重構成にするという技術思想は、本件考案の登録出願当初より明細書中に開示されていたものである。すなわち、右の記載からしても右明細書の「実用新案登録請求の範囲」にいう「書架の側壁」は単に一重構成のものに限られることなく二重構成のものをも含むものであることはいうまでもなく、また側壁を二重構成にした場合の効果も明示的に指摘されており、むしろこの効果を挙げるために側壁を二重構成にすることが積極的に勧奨されているのである。してみると審決が本件考案の出願当初の目的について「減速駆動機構を用い手動で車輪付きの書架を軌条に沿つて移動し得るようにしたことのみを目的とした」ものと認定していることは明らかに誤りであるといわざるを得ない。

(2)  次いで昭和49年7月15日付けをもつて特許庁審査官より拒絶理由通知が発せられると、これに対し出願人たる原告は昭和49年9月13日付け意見書を提出し、「書架の側壁は内ふところの薄い二重構造のものとしたい」(3頁1行ないし2行)と述べると共に、同日付け手続補正書により、明細書に、「かつ前記伝動系を書架の薄い二重側壁内に組入れることができて便利である」という文言を追加した。ここでは書架の側壁を二重構成にするという本件考案の一部をなす技術思想が改めて確認されると同時に、明細書においてはまさに側壁が二重構成であることを前提とする本件考案の効果が意識的に挿入されているのである。すなわちこの段階においては少くとも出願人としては本件考案の書架の側壁は二重構成をなすものとして認識していたものであり、また明細書の客観的記載からしても「実用新案登録請求の範囲」にいう「書架の側壁」は二重構成をなすもののみを指すか、又は二重構成をなすことを主として意図しているものであることが容易に看取され得るに至つているというべきである。

(3)  しかして出願人は拒絶査定不服審判の過程において、昭和50年10月24日付け手続補正書を提出し、「実用新案登録請求の範囲」を2の項1記載のとおりに補正したが、そこにいう「側壁の内側」とは二重に構成された壁と壁との内側の趣旨で記載されたものであり、また本件明細書に接する当業者たる第三者としても「前記伝動鎖による駆動機構部は二重に作られた書架の側壁内に格納するような方法によつて体裁を良くする」、「前記伝動系を書架の薄い二重側壁内に組入れることができて便利である」という記載を併け斟酌すれば、右「実用新案登録請求の範囲」の記載から右の趣旨を理解することができるといえよう。そして本件考案は右の「実用新案登録請求の範囲」をもつて昭和50年11月27日付けで出願公告の決定がなされ、昭和51年3月12日で出願公告せられたものである。すなわち本件考案の書架の側壁を二重にするという構成は右出願公告の決定謄本の送達前に既に明細書及び「実用新案登録請求の範囲」に右の範囲において表現せられていたものということができる。

(4)  ただ、側壁を二重構成にするという点に関し、右「実用新案登録請求の範囲」の記載が必らずしも明瞭とはいえないものであることは否定できない。そこで出願人は右出願公告に対する異議申立手続の過程において、昭和51年8月25日付け手続補正書により、前記「実用新案登録請求の範囲」の記載中、「書架の側壁」とある点を「二重に作られた書架の側壁」とし、「側壁の内側に」とある点を「二重に作られた上記側壁間において」と補正したのである。しかしてその後特許庁審査官より昭和52年1月27日付けをもつて拒絶理由通知が発せられ、「答弁書(=異議答弁書)中で説明している作用効果を記載するようにし、また明細書第3頁第3行目の「~望ましい」を「~できる」というように記載すること」という指示がなされたので、出願人はこの指示にしたがい昭和52年3月2日付け「意見書に代えた手続補正書」により右「望ましい」を「できる」に補正すると共に、明細書中に、「手動把手と共軸一体の伝動輪は二重に作られた側壁間に設けられているので駆動機構が書籍等の収納部がわに露呈することがなく、駆動機構に収納書籍等が倒れ込むこともないし、駆動機構の潤滑油が飛散しても収納書籍等を汚す恐れはない。そして側壁の一部が外側に突出するようなことはないから体裁上好ましく、歩行の障害にもならない。」という効果を追加し、これにより昭和52年6月6日付けで登録査定を得たものである。

(5)  以上の経過からも明らかなとおり、本件考案の「実用新案登録請求の範囲」は書架の側壁を二重構成にする点につき、出願公告の決定謄本の送達を前後を通じてその趣旨において同一というべきであり、前記した昭和51年8月25日付けの補正は単に「不明瞭な記載の釈明」にすぎないものである。

また仮に右補正が「実用新案登録請求の範囲」の減縮に該当するとしても、この減縮はそれまで右「実用新案登録請求の範囲」に全く存在していなかつた別個の構成を付加することによるものではない。前記のとおり本件考案の願書に添付された最初の出願明細書から一貫して「実用新案登録請求の範囲」には「書架の側壁」なる文言が記載されており、かつこの「側壁」は一重構成のもののほか、二重構成のものを含むことが明細書上明示されていたものであるところ、右減縮はこのうち二重構成のもののみを存置し、他の構成を排除することによりなされたものである。

してみるといずれにしても前記補正は「出願当初の具体的な目的と異なる新たな構成要件を付加するもの」ではなく、したがつて、また何ら実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものではないというべきである。また審決は前記昭和52年3月2日付け手続補正書により効果が加記された事実を指摘しているが、右加記はほかならぬ特許庁自身が指示したものであるばかりでなく、右効果は前記のとおり出願当初より本件考案の「実用新案登録請求の範囲」に含まれていた側壁の二重構成から当然に生ずる効果であつて、従前より明細書に記載されていた効果のほかにこれら効果を加記したとしても、そのことによつて本件考案の「実用新案登録請求の範囲」が実質上変更されたことになるものでないことはいうまでもない。

右のとおりであつて、審決における本件考案と引用例との対比は、前記認定に基づき前記補正がされなかつた出願について実用新案登録があつたものとみなしてなされた本件考案の要旨認定を前提とするものであり、したがつて前記のとおり右補正が何ら「実用新案登録請求の範囲」を実質上変更するものでない以上、右対比はその余について論ずるまでもなくその前提において失当というべきである。

第3被告の答弁及び主張

1  原告の請求の原因及び主張の1ないし3を認め、4を争う。

2  本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された最初の明細書に、原告主張のごとく、「二重に作られた書架の側壁」なる文言が存することは事実であるが、これは二重の側壁の構造について記載したものではなく、むしろ「本件考案の主題をなす減速駆動機構部は、二重の側壁中に体裁よく収納され得る」ことを述べているものである。つまり、減速駆動機構の有する利点(「本案の書架は前記のごとき構造をもつているから把手3を手動的に回転することにより、伝動鎖による減速機構が車輪1に強大な回転を伝え、重量の大きい書架でも容易にこれを軌条に沿つて移動することができる。」との点)を強調しているにすぎない。このことからみて、出願当初の本件明細書に開示記載された本件考案は、「減速駆動機構を用い手動で車輪付きの書架を軌条に沿つて移動しうるようにした」ことのみを、目的としているものであることは明白である。

その後原告が、(2)の項で主張するような内容の記載のある意見書及び手続補正書を提出したことも事実であるが、これをもつて、原告主張のように、「書架の側壁を二重構造のものにするという本件考案の一部をなす技術思想が改めて確認されると同時に、明細書においてはまさに側壁が二重構造であることを前提とする本件考案の効果が意識的に挿入されている」ものとすることはできない。なぜならば、前記意見書の文言も、明細書の補充も、共に本件考案における減速駆動機構の作用効果について強調しているものにほかならないからである。

原告が(3)の項で主張する「実用新案登録請求の範囲」の補正も、「側壁の内側」に伝動輪が設けられる旨を規定したものであつて、このことから右側壁が二重側壁であるという意味には、決してならない。この「内側」とは、「側壁外面」に手動把手が設けられるのに対し、「その反対側たる内側」に伝動輪が設けられる、という趣旨に解すべきである。

3  原告は、昭和51年8月25日付け手続補正により、従前の実用新案登録請求の範囲の記載中「書架の側壁」とある点を「二重に作られた書架の側壁」とし、「書架の内側に」とある点を、「二重に作られた前記側壁間において」と訂正し、さらに昭和52年3月2日付け意見書に代えた手続補正書において、明細書中の「書架の棚板7の懸架に邪魔にならぬようにすることが望ましい」とある部の「望ましい」を「できる」と補正し、また本件考案の作用効果として原告主張(事実摘示第2、4、(4))のような文言を追加補正した。

右各補正により、書架の側壁を2重とすべきことが、登録請求の範囲において取り入れられ、かつ右二重とした作用効果が挿入され、これにより側壁が二重であることが、本件考案の重要な要素となるに至つた。

しかしながら、前述のとおり、明細書においては、二重構造の側壁なる記述は存したが、それは本件考案の減速伝動機構が二重側壁にも収納できる旨の記述に過ぎず、側壁を2重にした場合の作用効果については、全く触れるところはなかつた。図面においても二重構造の側壁は示されていない。このような状況において、明細書における二重構造の側壁なる言及は、本件考案の減速伝動機構の技術の開示の必要性に伴つてなされているものに過ぎず、二重構造の側壁としての技術の開示は何らなされていないのである。

このような形で公告された明細書において、出願当初何ら限定のなかつた請求の範囲中の「側壁」を、格別の効果を期待して2重側壁に変更することは、出願当初の具体的な目的と異なる新たな構成要件を付加し、考案の目的に変更を加えるものであつて、第三者の利益を著しく損うものである。

右の理由により、原告のした補正は不明瞭な記載の釈明に当らないばかりでなく、請求の範囲の減縮にも当たらない。

第4証拠

原告訴訟代理人は、甲第1号証、第2号証の1、2、第3号証の1ないし19、第4号証を提出し、乙号各証の成立を認め、被告訴訟代理人は、乙第1、2号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

原告の請求の原因及び主張の1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、審決に、これを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

成立について争いのない甲第2号証の1、2、第3号証の14、15及び同号証の17を総合すると、本件実用新案登録出願について出願公告をすべき旨の決定が原告に送達された当時の本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、事実摘示第2、2、1のとおりであり、その後同第2、2、2のとおり補正されたものであることが認められる。

ところで、審決は、右補正後の実用新案登録請求の範囲は「側壁を二重に作り、その側壁間に手動把手と共軸一体に設けられた手動把手の回転半径よりも小さい半径の伝動輪を設置させた」点で補正前の実用新案登録請求の範囲よりも減縮されているが、この減縮した補正は、減速駆動機構を用い手動で車輪付きの書架を軌条に沿つて移動す得るようにしたことのみを目的とした出願当初の具体的な目的と異なる新たな構成要件を付加するものであるから、実用新案登録請求の範囲を実質上変更したものである旨判断している。

本件補正後の実用新案登録請求の簡囲が、少なくとも前記審決の挙げた点で、補正前のそれを減縮するものであることは審決のいうとおりである。しかしながら、前掲甲第2号証の1によれば、補正前の本件考案の明細書の考案の詳細な説明の項には既に「伝動鎖による駆動機構部は二重に作られた書架の側壁内に格納するような方法によつて体裁を良くすると共に、書架の棚板7の懸架を邪魔にならぬようにすることが望ましい。」(甲第2号証の1、第2欄第15行ないし第19行)、「上記伝動系を書架の薄い二重側壁内に組入れることができて便利である。」(同欄第24行ないし第26行)との記載があることが認められるところ、この記載に基づいて実用新案登録請求の範囲を前記のように減縮することは、なんら実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものではない。

被告は、本件考案の出願当初の明細書の考案の詳細な説明の項中には「二重に作られた書架の側壁」なる文言が存し、昭和49年9月13日付け手続補正書中には「伝動系を書架の薄い二重側壁内に組入れることができて便利である。」との記載はあるが、これらは二重の側壁の構造について記載したものではなく、減速駆動機構の有する利点を強調したものにすぎないというが、その主張は全く理由がない。

右のとおりであつて、原告の昭和51年8月25日付け及び昭和52年3月2日付けの補正は、補正前の実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものであるから、その補正がなされなかつた実用新案登録出願について登録がなされたものとみなされることを前提とする審決の判断は、その余の点についての判断をするまでもなくその前提において誤つており、違法である。

よつて、その取消を求める原告の請求を認容し、訴訟費用は敗訴の当事者である被告の負担とすることとして、主文のとおり判決する。

(高林克巳 杉山伸顕 八田秀夫)

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